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第204話 仏教用語 (火宅)

耕平さんブログ

皆さん、こんにちは。梅雨の真っ只中。体調を崩されませんよう、くれぐれもご自愛 ください。

日常会話の中に登場する仏教用語をお伝えしているかわら版。少しでも読者の皆さん のお役に立てば幸いです。

今月は「火宅」です。法華経の「方便品(ほうべんぽん)」に含まれる「法華七喩 (ほっけしちゆ)」の最初の喩え話、「三車火宅」の喩えに由来する仏教用語です。

炎の怖さも、そのままでは焼け死ぬことも理解できない子どもたち。その子どもたち を救い出す話を伝えているのが「三車火宅」の喩えです。喩え話の内容については、 先月号のかわら版でお伝えしました。詳しくは先月号をご覧ください。

さて、「火宅」と聞いて「火宅の人」という小説、映画を思い出した方は、団塊の 世代以上だと思います(笑)。

「火宅の人」は檀一雄の遺作長編小説。雑誌「新潮」に一九五五年(昭和三十年) から二十年にわたって断続的に連載されました。

一九七五年(昭和五十年)に単行本が刊行され、数々の文学賞を受賞。

翌年、壇一雄が亡くなると、一九七七年にテレビドラマ化が計画されたものの遺族の 反対で制作中止。その二年後にテレビドラマ化、一九八六年(昭和六十一年)に映画 化されました。

妻と障害を持つ子どもを抱える作家の主人公が、女優を愛人としながら小説を量産 し、やがて家族をよそに、放浪の旅を続けるストーリー。壇一雄の私小説とも言われ ました。

壇一雄は、法華経の「三車火宅」の喩えから「火宅の人」というタイトルをつけたそ うです。

「欲」と「執着」に囚われ、「煩悩」の炎の中で暮らす「衆生(人々)」。「欲」や 「執着」を制し、誰の心にも宿る仏心を開くことを教え導く仏教。

しかし、人間が人間である限り、「欲」や「執着」から逃れること、内心に宿る仏心 を開くことは容易ではなく、「成仏」して「真実」を覚ることは困難です。

「火宅」とは、「燃え盛る家のように、欲、執着、苦悩、危険に包まれつつも、少 しもそのことに気づかずに、奔放な生き方にのめりこんでいる」状態を指す仏教用語 です。

仏教では人間には「五欲」があると教えます。「食欲」「性欲」「睡眠欲」「金銭 欲」「名誉欲」。しかし「欲」そのものが悪いわけではありません。「貪(むさぼ) る」ような「欲」が「煩悩」となり、「欲」が人を焼き尽くすまでになります。

一九八七年のNHK特集「命燃え尽きる時・作家檀一雄の最期」では、病床の口述筆 記で、「火宅の人」完成に向けて苦闘する壇一雄さんの姿が録音テープと共に紹介さ れたそうです。

文豪も影響を受けた仏教用語。奥が深いです。それでは皆さん、また来月お会いしま しょう。

(2019年6月)


大塚耕平

  • 2002年から「弘法さんかわら版」を書き続けています。仏教に親しみ、仏教から学び、仏教を探訪しています。より良い社会を目指すうえで仏教の教えは大切です。「弘法さんかわら版」は覚王山日泰寺(名古屋市千種区)と弘法山遍照院(知立市)の弘法さんの縁日にお配りしています。縁日はお大師様の月命日に立ちます。覚王山は新暦の21日、知立は旧暦の21日です。
  • 著書に「お大師様の生涯と覚王山」(大法輪閣)、「仏教通史」(大法輪閣)など。全国先達会、東日本先達会、愛知県先達会、四国八十八ヶ所霊場開創1200年記念イベント(室戸市)、中日文化センターなどで講演をさせていただいています。毎年12月23日には覚王山で「弘法さんを語る会」を開催。ご要望があれば、全国どこでも喜んでお伺いします。
  • 1959年愛知県名古屋市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、同大学院博士課程修了(学術博士、専門はマクロ経済学)。日本銀行を経て、2001年から参議院議員。元内閣府副大臣、元厚生労働副大臣。現在、早稲田大学総合研究機構客員教授(2006年~)、藤田医科大学医学部客員教授(2016年~)を兼務しています。元中央大学大学院公共政策研究科客員教授(2005年~17年)。